東亞合成研究年報25号

2022年1月1日発行

新技術紹介

エクソソームへのEGFおよびサポリンの共内包化は癌細胞に対する細胞毒性を増強する

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脂質二重膜で覆われた細胞外小胞であるエクソソーム(約30~100 nm)は、生体を構成するほとんどの細胞から分泌され、周辺細胞によって取り込まれる。エクソソームにはマイクロRNAや生理活性タンパク質など細胞機能を制御する分子が内包されており、細胞間コミュニケーションにおいて重要な役割を持つ。一方、エクソソームの細胞内取り込みにおいて、受容体を介したクラスタリン依存的エンドサイトーシス、およびアクチン細胞骨格依存的に細胞外の栄養素を取り込むマクロピノサイトーシスの関与が報告されているが、詳細な機序に関していまだに解明されてない。
本稿ではマクロピノサイトーシス誘導受容体を活性化させる上皮成長因子(EGF,Epidermal Growth Factor)を、抗癌活性タンパク質サポリンと共にエクソソーム内に共内包化させて抗癌活性を評価した。その結果、驚くべきことに、エクソソームへのEGFとサポリンとの共内包化は、癌細胞であるA431細胞(ヒト上皮様細胞癌由来)に対する細胞毒性を顕著に増強することを見出した。

ソフトセンサーによる反応率の管理

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化学プラントのバッチ反応を目標反応率で停止できなかった場合、製品品質がばらつき、規格から外れるリスクが高まるため、反応液の採取、分析および分析結果を受けてのアクションが必要である。もし反応率が低い場合は反応をさらに継続した後に、一連の作業を繰り返す必要がある。
この解決策として、反応率と相関する分析計を新たに設置し、反応率の代替として連続的にモニターすることが行われている。しかし、設置コストや反応液の性状、法規制などの観点から分析計の設置が難しいケースもある。もう一つの解決策として、ソフトセンサーの利用が考えられる。本稿では、そのソフトセンサーについて簡単に紹介したのち、アクリル酸エステル合成反応におけるソフトセンサーの有効性を検討した結果を報告する。

新製品紹介

家庭用瞬間接着剤「アロンアルフア タフパワー」

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家庭用アロンアルフアは1971年に販売を開始してからこれまで50年の間、瞬間接着剤の代名詞として親しまれてきた。2004年に販売を開始した「アロンアルフアEXTRA速効多用途(以下速効多用途と略記)」は、幅広い材料への瞬間接着性と容器の使いやすさを追求した商品として好評を博し、ホームセンターなどの量販店やコンビニエンスストアなど多くの店舗で手に入るロングセラー商品となっている。
アロンアルフア50周年に合わせて、速効多用途を超える低粘度タイプのアロンアルフア新商品の開発を進め、速効多用途の長所である容器の使いやすさをさらに改良し、それに加えて接着耐久性を付与した新商品「アロンアルフアタフパワー」の開発に成功したため、紹介する。

赤外線センサーカバー兼フィルター「アロニックスシートNIRシリーズ」

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近年自動車の自動運転やドローンあるいはIOT化のため、高精度なセンシング技術の需要が高まっている。赤外線センサーは、その位置精度の高さより重要なセンシング技術の一つだが、高耐久性化や小型低価格化がさらなる普及のカギとなっている。このような要求に応えるべく、センサーカバーとノイズカットフィルター機能を備えたアロニックスシートを開発した。従来別々の部品で構成されていたカバーとフィルターを併せることで部品数の削減や軽量化だけでなく、高い耐久性、赤外線透過性を実現した。本報告では、開発したアロニックスシートに関して、車載赤外線センサー(Lidar)用途に向けた光学特性、耐久性および加工性に関して検討した内容を紹介する。

加飾フィルム用粘着剤「アロンタック MPT-29, MPT-69」

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近年、自動車分野では、CO2排出抑制や意匠性向上を目的に、塗装代替の加飾手法が検討されている。その中でも、色柄や凹凸など、塗装では再現不可能な意匠が施された熱可塑性のフィルムを、接着材料を用いて三次元形状の部品に貼り合わせる真空圧空成形(OMD)というフィルム加飾手法が注目されている。
当社では、アクリル系粘着剤に適切なタッキファイヤ(TF)を添加することで、粘着塗膜表面にTFが高濃度で偏析し、高温接着性を大幅に改善できることを見出している。本稿では、TFの偏析技術を応用して開発した、加飾フィルム用粘着剤アロンタックMPT-29およびMPT-69の性能と特徴について紹介する。

下水道本管から宅地内への逆流を防ぐ“逆流抑止マス”

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2018年の西日本豪雨をはじめとする甚大な水害は記憶に新しい。ここ数年来、毎年のように6月から7月の梅雨シーズン、9月から10月の台風シーズンに目の当たりにする光景となった。いつ、どこで発生するか予測困難であり、事前の備えの重要性が叫ばれている。法律等の整備が進み危機感を持つ人が増えている一方でハード面の整備に関しては十分に進んでいない。
この突発的な集中豪雨の影響は、下水道配管内においても例外ではなく逆流という悪影響を及ぼしている。
この逆流現象に対処すべく開発したのが、中空構造の弁体を採用することで排水の阻害を軽減可能な常時開口状態を実現し、逆流時のみ浮力により閉口し上流側への逆流を抑制する“逆流抑止マス”である。
本稿では今回開発した下水本管からの逆流を抑制する“逆流抑止マス”について紹介する。

車載電材絶縁用粉体塗料「アロンパウダーELシリーズ」

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当社のエポキシ系粉体塗料「アロンパウダー ELシリーズ」は、独自性の高い化学組成に基づく高い電気特性を活かして電機部品の絶縁処理に量産使用されている。
昨今、世界的な規模で自動車の電動化が急速に進む中、EV・HVなどに搭載される主機モーター(駆動用モーター)・バッテリー・制御周りなどの車載電材について、高出力化および高効率化の取り組みが精力的に続けられている。今回我々は、平角線モーター・バスバーなど新たな展開を見せている車載電材に最適化した絶縁用粉体塗料を開発したので本稿にて紹介する。

トピックス

トヨタ新型MIRAIに当社接着剤が2品採用

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地球温暖化問題を背景としたCO2排出量削減という観点から、世界各国でガソリン車やディーゼルエンジン車を規制しようとする動きがある。このような状況の中、トヨタは、燃料電池車の本格的な普及を目指し、量産性に優れた第2世代燃料電池の開発に取り組んでいた。トヨタの第2世代燃料電池はセルが数百枚も積層された構造であり、燃料電池を安価に大量生産するために、秒単位の短時間接着技術が必要となった。その接着部分には、自動車用途に耐え得る耐久性と品質安定性が必要とされた。このニーズに対して開発に取り組んだ結果、2つの接着部分において、光硬化型接着剤とホットメルト型接着剤がそれぞれ採用となり、最近発売された2代目MIRAIに搭載されるに至った。本報では、それら開発の概要を紹介する。

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