CO2負荷の少ないシングルナノセルロース開発のお知らせ - 高濃度次亜塩素酸ナトリウムを用いた酸化反応によりCNFの低コスト化を実現 -

2020年11月25日

 東亞合成株式会社(本社:東京都港区 社長 髙村 美己志)は、東京大学大学院農学生命科学研究科の磯貝 明特別教授のグループらとの共同研究1)のもと、低コストかつ分散や乳化などの工程においてシングルナノセルロースにまで容易に解繊することが可能な新しい酸化セルロースを開発しました。

1.開発の背景

 非可食性バイオマス由来のセルロースナノファイバー(CNF)は、脱炭素化社会の実現に貢献する素材として注目されており、性質として軽く、強く、しなやかな透明の素材であることから自動車部材などの高機能材料への応用も加速しています。

 一方で、木材等から得られるセルロース繊維をシングルナノセルロース(毛髪の1万分の1の細さ)まで解繊する(解きほぐす)には多大なエネルギーが必要であり、CO2負荷が大きくなるとともに製造コストが嵩むことから、CNFの優れた特性を生かした実用例が少ないのが現状です。このため、当社では解繊に必要なエネルギーの低減および低コスト化を図ることを目指しました。

2.本開発品の特長

(1)新しい酸化反応の利用

 パルプ等を原料とし、高濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いた酸化反応において、非常に緩やかな撹拌混合エネルギーによってシングルナノセルロースにまで解繊される酸化セルロースを開発しました。

(2)良好な解繊性

 顔料の分散や化粧品の乳化に使用される汎用的なホモミキサーで数分間攪拌するだけで、ナノ解繊が進み透明な水分散液となります(図1参照)。これにより、製造時および使用時にかかるエネルギーを大幅に抑え、コストの削減とCO2削減を同時に達成しました。

(3)提供形態

 シングルナノセルロースまたは酸化セルロースとしての提供を予定しています。新たに開発した製造方法で得られる酸化セルロースは、使用時にナノ解繊されるため、既存品に比べて高濃度である15%水分散液として取扱うことが可能です。そのため、使用時における水の持込み量の削減や輸送時の省エネルギー化にも貢献します。

3.応用例

(1)分散

 本開発品は、ナノ解繊後の繊維長が比較的短いため高濃度でも粘度上昇が小さく、分散剤としての応用が期待されます。たとえば、酸化亜鉛ナノ粒子の水分散液に本開発品を添加・混合することにより、安定な分散液を得ることができます(図2参照)。このように無機酸化物等のナノ粒子分散剤としての利用を想定しています。

(2)樹脂の強化

 CNFとして0.51.0wt%の低添加量で、ABS樹脂の弾性率を約20%向上させることができます(図3参照)。このCNF強化樹脂は、乳化重合時に本開発品を使用することでCNFを高濃度で均一に分散させた樹脂を用いることで作製が可能となります。

4.今後の展開

 既存のCNFと比べて5分の1程度の販売価格を目指したコストダウンと量産化の検討を進め、早期事業化を図ります。次亜塩素酸ナトリウムを製造、販売する当社のリソースを最大限生かし、輸送方法も含めたCNFの新しい利用方法を提案していきます。さらに用途開発を進め、持続可能で豊かな社会の実現に貢献する製品として、バイオ資源の有効活用とCO2削減を目的とした環境に優しい新しい材料を世の中へ提供いたします。

<本件に関するお問合せ先>

 東亞合成株式会社 グループ経営本部IR広報部 電話03-3597-7215

CO2負荷の少ないシングルナノセルロース開発のお知らせ - 高濃度次亜塩素酸ナトリウムを用いた酸化反応によりCNFの低コスト化を実現 -


1)
Nanocellulose production via one-pot formation of C2 and C3 carboxylate groups using highly concentrated NaClO aqueous solution,
ACS Sustainable Chemistry & Engineering
(2020年11月19日オンライン版),
(https://dx.doi.org/10.1021/acssuschemeng.0c06515)
Shiroshi Matsuki,† Hidenari Kayano,† Jun Takada,*,† Hiroyuki Kono,‡
Shuji Fujisawa,*,§ Tsuguyuki Saito,§ and Akira Isogai.§
General Center of Research and Development, TOAGOSEI CO., LTD
Division of Applied Chemistry and Biochemistry, National Institute of Technology, Tomakomai College
Department of Biomaterial Sciences, Graduate School of Agricultural and Life Sciences, The University of Tokyo

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図2.10%酸化亜鉛ナノ粒子(20nm)の分散

左:無添加
右:酸化セルロースを5wt%添加

ホモミキサー 10,000rpmで10分処理後、1週間静置


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図3.ABS樹脂の強化