東亞合成研究年報16号

2013年1月1日発行

論文

高分子鎖の絡み合いを考慮した重合反応を伴う相分離ダイナミクス

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高分子材料を高機能化するために、複数種類の高分子を混合するという方法がよくとられる。一般に高分子は互いに反発しあうため相分離し、大量成分が連続相を形成する。しかしながら、重合反応によって誘起される相分離(反応誘起相分離)では、少量の成分が連続相を形成するため、通常の相分離構造を持つ物質とは異なる物性を示し、興味深い。そこで本研究では、反応誘起相分離での相分離構造形成ダイナミクスのモデル化を試みた。

本研究では、高分子鎖の動きやすさが相分離構造形成に大きな影響を与えると考え、高分子鎖の絡み合いを取り入れてモデル化を行った。このモデルでは実現象と同様に少量成分が連続相となったが、しばらくすると、通常の相分離と同様に大量成分が連続相となってしまうことが明らかになった。

新技術紹介

シルセスキオキサン誘導体「光硬化型SQ シリーズ」の宇宙用材料への応用
~ 耐原子状酸素コーティングの開発 ~

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国際宇宙ステーション(International Space Station、以後、ISSと表記)や地球観測衛星などの宇宙機は高度300~1000kmの低軌道域を周回している。実は、この軌道域にも窒素及び酸素などの気体が存在するが、地上での大気組成とは異なっており、太陽光の強い紫外線(以後、UVと表記)により酸素分子O2が解離して生成した原子状酸素(Atomic Oxygen、以後、AOと表記)が高い割合で存在する。特に、高度200~600kmにおいては、AOの占める割合が最も高く、ISSが周回している高度約400kmでは80%以上の割合で存在する。

このような環境の中を宇宙機が飛行すると、宇宙機の速度(7~8km/s)という高速で反応性の高いAOと衝突することになるため、耐酸化性の乏しい金属材料(銀など)は酸化されて腐食し、有機系材料はガス化して著しく浸食されてしまう。

LED照明用拡散剤の開発

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2011年に起こった未曾有の東日本大震災以後、日本全土で省エネルギーの機運が高まり、LED(Light Emitting Diode)照明の需要が急激に伸びている。LED照明は、低消費電力、長寿命、小型、軽量、水銀を含まない、赤外線や紫外線の放射が少ない等の長所を有しており、白熱電球や蛍光ランプの代替にとどまらずこれまで実現できなかった多様な分野で発展することが期待されている。当初は発光効率も低かったが、最近では100lm/Wを超える製品も出始めており、白熱電球だけでなく蛍光灯と比較しても遜色のない効率になりつつある。2011年時点で世界におけるLED照明の普及率は10%程度と、まだ黎明期から普及期にさしかかった状態であり、今後、低コスト化・高機能化に伴い益々市場を拡大していくことが期待されている。

粘着剤ベースポリマーとタッキファイヤーの混和性評価

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粘着剤は、テープ、ラベルなどの形態に加工され、幅広い用途に利用されている。近年、エレクトロニクスの飛躍的な進歩により、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどのフラットパネルディスプレイの透明ガラスもしくはプラスチック板の積層用に粘着剤が用いられている。このような光学用粘着剤には、各種材料への高い接着性だけでなく、高い透明性、耐久性等が求められている。

これらの要求を満たすために、粘着剤ベースポリマー(BP)の改良だけでなく、タッキファイヤー(TF)を添加することにより、性能を改善する検討が広く行われている。TFとは、一般的に、分子量が数百~数千程度の非晶性オリゴマーであり、ロジンやテルペン樹脂等の天然樹脂系TF、又は、石油樹脂等の合成樹脂系TFが知られている。光学用粘着剤は、着色や変色を避ける為、高い透明性を有するスチレン系石油樹脂TFが用いられることが多い。しかし、それらTFのほとんどは、極性が低いことから、極性の高いBPには相溶性が悪いという問題があった。

フェロシアン化鉄を用いたセシウム吸着材

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平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震直後に発生した東京電力(株)福島第一原子力発電所の事故により、多量の放射性物質が放出された。当社では、このような状況に対し貢献しうる手段を検討し、保有するイオン交換体や微量分析技術が放射性物質の除去に応用できると考え、セシウム吸着材の開発に着手した。ちなみに、当社では無機イオン交換体(IXE)を製造販売しているが、同技術の放射性物質吸着への応用が以前に研究されている。

この事故において、広い範囲に拡散した放射性物質の放出源は、原子炉格納容器の圧力解放(ベント)によるものであった。このため、広く拡散した放射性物質は揮発性の高い化合物を作りやすいセシウムやヨウ素がその大半を占めた。この点では炉心が爆発して超ウラン元素など様々な核種が放出されたチェルノブイリ事故(1986年)とは状況が異なる。また、当初問題とされた放射性ヨウ素(131I)は、半減期が短く、現時点ではほぼ消失していることから、原子炉とその周辺を除けば環境中に存在する放射性物質のほとんどがセシウムの放射性同位体である134Cs(半減期約2年)と137Cs(半減期約30年)であるとされる。放射性セシウムは単位重量当たりの放射線量が高く(比放射能として3.2×1012Bq/g)半減期も長いため、危険度が高い。したがって、今回の事故で拡散した放射能を除去するためには、セシウムを効果的に取り除く方法を確立する必要がある。

アルカリ金属であるセシウムイオンを吸着できる物質はゼオライトなどいくつか知られているが、今回のケースでは原子炉を海水で冷却したことや海に放射性物質が漏洩したことなどにより、他の多量のアルカリ金属イオンと少量の放射性セシウムが共存する状況が発生した。このため、この中からセシウムだけをできるだけ効率的に取り除く物質を使う必要があると考えた。そのような材料として、フェロシアン化鉄(別名:プルシアンブルー、紺青)に着目し、これを造粒したセシウム吸着材の開発を進めた。本開発は、社内外の多くの協力を得ながら取り組んできたもので、本報にてその技術を紹介する。

曲面ディスプレイの評価技術構築

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近年、交通機関や店頭などで液晶ディスプレイを活用した電子看板を目にする機会が増えてきている。これらの電子看板は、既存の液晶ディスプレイをそのまま設置しているため、形状に自由度がなく平面な場所に取り付けるしかない。例えば、駅などでよく見かける円柱に液晶ディスプレイを設置すると、非常に不自然な取り付け方になってしまう。

この問題を解決するために、曲面に沿って設置可能な曲面ディスプレイの開発が進んでいる。しかしながら曲面ディスプレイは、フラットディスプレイと異なり角度の影響で輝度が変化する(図1)など、光学評価が難しいことが知られている。筆者が調べる限り、曲面ディスプレイ用の光学測定装置は市販されていない。

本研究では曲面ディスプレイの基礎研究として、曲面ディスプレイを精度良く測定できる曲面光学測定方法を考案したので報告する。なお本検討は、TRADIM(次世代モバイル用表示材料技術研究組合:Technology Research Association for Advanced Display Materials)にて実施した内容であり、評価に使用した液晶ディスプレイは、「超フレキシブルディスプレイ部材技術開発」で作製したプラスチック液晶パネル(以下パネル)を用いている。

新製品紹介

3Dシステム(アルミ複合三層ポリエチレン管・継手)

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アルミ複合三層ポリエチレン管(以下、三層管という)は、ヨーロッパで開発された管材であり、その品質・施工性が評価され、架橋ポリエチレン管やポリブテン管などの樹脂管に代わる新しい管材として普及した。ヨーロッパでは既に給水・給湯市場の30%のシェアを占め、現在ではアメリカや中国などでも普及が進んでおり、日本国内でも三層管に注目が集まりつつある。

日本国内で三層管を取り扱っているメーカーは、現在10社以上あり、市場は既に混戦模様を呈している。しかし、取り扱われる継手のほとんどが金属製であり、「コスト」、「形状」、「耐食性」などの問題点を抱えており、なお改善の余地が残されている。

そこで当社は、樹脂加工メーカーならではの強みを活かし、それらの問題点をカバーした「オール樹脂製継手」を中心とした、給水給湯配管システム「3Dシステム」を開発し、市場へ参入することとした。

無機・有機ハイブリッド形アクリルゴム系表面被覆材「アロンブルコート」

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近年、土木コンクリート構造物のはく落防止市場が大きくなってきており、競争力があり、安価で汎用性のあるはく落防止工法として無機・有機ハイブリッド形アクリルゴム系表面被覆材「アロンブルコートZ-X工法」を、株式会社駒井ハルテックと共同で開発したので本書で報告する。

高熱伝導性材料の開発

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電子機器の高密度化・省スペース化が急速に進み、熱による製品性能に対する影響が深刻になっている。一般的にヒートシンクなどに効率よく熱を伝えるために、熱伝導性の良好で柔らかい放熱シート(シリコーンゴム・ゲルなど)が使用されている。しかし、シリコーン系放熱シートでは、低分子量シロキサンより生成される絶縁物の付着による接点不良等の問題点が挙げられる。

最近では、電気・電子機器が複雑化する中で、放熱ゴム・ゲルに対する要求も従来の単純なシートだけではなく、0.5mm以下の肉薄のものや、逆に6mm以上の肉厚なもの、またシート形状ではなく複雑な形状のものなど多種多様化してきている。

東亞合成グループでは、アロン化成および東亞合成の両社で熱伝導性を有する新規材料の開発に取組んでいる。アロン化成では、比較的自由な設計ができ、かつ低分子量シロキサンを含有しない、高熱伝導熱可塑性エラストマー「グレイザード」を(地独)大阪市立工業研究所と共同開発した。また、東亞合成では、0.1mmと非常に薄いながらも高い接着性および耐熱性を発現する熱伝導性接着シート、および従来品と比べて耐熱性に優れる熱伝導性アクリル系微粘着シート「TCシリーズ」を開発したので、それぞれについて紹介する。

次世代無機イオン捕捉剤「IXEPLAS(イグゼプラス)」

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無機イオン捕捉剤「IXE(イグゼ)」は、優れたイオン交換特性と耐熱性を兼ね備えた材料である。表1にIXEの代表的なグレードの物性を示す。

IXEの基本性能は系中に存在するイオン性不純物を捕捉不活性化し、イオンが原因で発生する様々な不具合を抑制することである。現在IXEは主に封止樹脂などに練り込まれて使用され、半導体素子の信頼性向上に応用されている。

しかし、近年RoHS指令や電子材料業界の自主規制により、一部の重金属の使用が制限され、IXEのグレードでも重金属を含むものは避けられつつある。さらに半導体素子の微細化による狭ピッチ配線への適応、従来のAl配線やAuワイヤにCuを用いることで発生するマイグレーションの抑制など、既存のIXEでは対応の困難な課題が顕在化している。

そこで、これらの課題に対応可能な次世代無機イオン捕捉剤「IXEPLAS(イグゼプラス)」を開発したので紹介する。

研究コラム

タイトル 掲載 所属 執筆者名
研究者に求められるもの[PDF:161KB] 『TREND』16号 基礎化学品研究所長 山本 則幸

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