東亞合成研究年報7号

2004年1月1日発行

論文

グリッドコンピューティングによるヒト染色体DNA塩基配列の周期性探索

ヒトのDNAに潜むであろう長大な周期性を解析し、遺伝子病との関連を明らかにするNTTデータ・CellComputing大規模実証実験・遺伝子病治療研究プロジェクト(2002年12月から2003年4月末まで行われた(株)NTTデータによるCellComputing大規模実証実験研究テーマの一つとして東亞合成㈱新製品開発研究所 吉田徹彦のプロジェクトテーマが採用1))の成果の一つとして、ヒト染色体DNA塩基配列中に10,000塩基以上の長大な周期性を有するタンデムリピート領域を見出したのでここに報告する。

計算化学による環状エーテル類のカチオン開環重合性の検討

光潜在性のオニウム塩を利用した光カチオン硬化型材料は、既存の光ラジカル硬化型材料を補完して光硬化型材料の市場を一層拡大できる新規材料としての期待が持たれているが、エポキシ系の材料は硬化速度が遅く、ラジカル重合と比肩し得る硬化速度を有するカチオン硬化型材料の開発が熱望されている。一方、環状エーテル類の反応性の支配因子としては、求核性、環歪み、立体障害等を想定しこれまでに解析が行われているが、3、4員環等の小員環の重合機構は依然として不明瞭な点が多数残されている。

本研究では、高反応性を有する環状エーテル類の材料設計指針の確立を目的として、環状および直鎖状エーテル類の環歪みエネルギーおよびプロトン親和性を計算化学により算出し、既報の実験値との高い相関を確認した。それらの計算値が開環反応のエネルギー障壁とも良い相関を有することも明らかにした。更に、フロンティア軌道理論に基づく考察から、重合の活性末端のモデルであるプロトン付加体のLUMOと求核体である環状エーテルのHOMOのエネルギー準位により開環反応性が説明できる可能性を見出した。

コロイド振動電位による水系アルミナスラリーの分散特性評価

ゼータ電位1)は、DLVO理論2)3)における粒子間の反発・吸引力を検討する上で重要である。しかし、ゼータ電位測定は希薄濃度で測定しなければならないなど、実際の使用条件と環境が大きく異なるため、泥漿(陶磁器などの鋳込み用途)やペースト(塗料や繊維被覆用添加剤用途)の分散性を評価する場合に用いられることは少ない。

近年、debye効果4)を応用したコロイド振動法5)6)によるコロイド振動電位(Colloid Vibration Potential:CVP)測定装置が開発され、高濃度でもゼータ電位が測定出来るようになった。

そこで、筆者らは、分散剤添加量及び電解質濃度を変化させることで粘性を変化させたアルミナスラリーを用いて、従来の分散性評価法である粘性評価及びコロイド振動法によるCVPの評価を行なった。その結果、従来の粘性評価による分散性の評価とCVP測定による分散性の傾向は一致することが分かった。CVP測定による高濃度スラリーの分散性評価の有意性が確認された。

シルセスキオキサン(SQ)骨格を有する超耐熱性材料の合成

超耐熱性ケイ素系材料の創出を目指し、Si-H結合とC=C結合を一つの分子内に有するシルセスキオキサン(SQ)化合物の合成、および、これらのSQ化合物をヒドロシリル化により架橋させた硬化物の耐熱性について検討した。

これらのSQ化合物の一つであるビニル-ハイドロジェン-シルセスキオキサン(V-H-SQ)は、ビニルトリメトキシシラン(V-TRIMS)とトリエトキシシラン(TRIES)を溶剤中で加水分解・共縮合させることで合成された。調製中のゲル化を防ぐ為に、末端Si-OH基の封止剤としてヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)やテトラメチルジシロキサン(TMDSO)を添加した。特に、TMDSOを添加することで得られたV-H-SQのヒドロシリル化重合後の硬化物は1000℃での重量損失率が5.6%という極めて高い熱安定性を示すことが分かった。

新技術情報

OX-SC:有機・無機ハイブリッドを形成可能な液状材料

軽量で柔軟性、加工性等に優れた有機材料である高分子材料への更なる機能付与のアプローチとして、無機成分を分子レベル(ナノスケール)で複合化した有機・無機ハイブリッド化による新規構造の設計が活発に行われている。有機・無機ハイブリッド材料は、高分子材料の持つ上記特性と無機材料の有する剛性、耐熱性、耐候性とを両立させたうえで、さらに、無機成分の優れた特長を効率よく引き出したり、ガスバリア性、難燃性等々の相乗効果的な新規物性を発現できる材料としての可能性が期待されている。

無機成分として用いられるシリカゲル等の金属酸化物微粒子を光の波長より小さいナノオーダーまで微細化した場合、ハイブリッド材料に透明性を付与でき、更に、無機成分の選択により屈折率等の光学特性をコントロールすることも可能となるため、今後の大きな市場の伸張が期待されているフラットディスプレィパネル関連や光通信関連等の高付加価値を有する多様な用途への展開が行える。このような用途ではポッティングやコーティングを行う必要から、発泡等の欠損を生じることなくin-situ重合が可能な液状材料が望まれている。

細孔フィリング重合法による燃料電池用電解質膜の開発

筆者らは東京大学の山口助教授が考案した細孔フィリング電解質膜の技術を用いて、燃料電池用電解質膜としての実用化を目指して研究している。細孔フィリング電解質膜はサブミクロンサイズの細孔を有する多孔質膜の孔内に電解質ポリマーを充填したユニークな構造の電解質膜である。モバイル機器への応用が期待されている直接メタノール形燃料電池(DMFC)においては、燃料であるメタノールが膜を透過してエネルギーロスとなるクロスオーバーの問題がクローズアップされている。細孔フィリング構造は、燃料電池用電解質膜として通常用いられているポリパーフルオロアルキルスルホン酸系の膜で問題とされていたメタノールのクロスオーバーを軽減することができる。実際、細孔フィリング電解質膜をDMFCに組み込むと高い性能が得られることを確かめ、膜の特性が燃料電池性能に与える影響を調べたので以下に報告する。

新製品紹介

シルセスキオキサン誘導体「SQシリーズ」

有機材料単独、または無機材料単独では得られない物性を有する材料の創出を目的として、有機材料と無機材料を組み合わせた有機・無機複合材料の研究が盛んに行なわれている。有機・無機複合材料のうち、無機部と有機部の間に、共有結合のような強い結合があるものを有機・無機ハイブリッドと呼び、コンタクトレンズやプラスチックハードコート、歯科材料の分野で応用されている。

ところで、我々の生活の基盤となる化学製品の中に、反応性オリゴマーという製品群がある。反応性オリゴマーは、多くの場合液状であって、最終製品に特定の性質を持たせるための改質剤として使用される。ウレタンアクリレートやエポキシアクリレート、ビスフェノールA型エポキシ樹脂といった反応性オリゴマーは今や生活に浸透しているが、有機材料であるがための欠点も有している。有機・無機ハイブリッドで、尚且つビスフェノールA型エポキシ樹脂等と同じように使える材料があれば、最終製品である塗料や接着剤、成型品等に無機材料の性質を簡単に付加することができ、有益であると考えられる。しかし、反応性有機・無機ハイブリッドの入手は容易でない。このような反応性オリゴマー市場を背景に、我々はシルセスキオキサン誘導体「SQシリーズ」を開発したので紹介する。

高純度エチレンカーボネート~新規レジスト剥離剤~

半導体等集積回路における微細加工は、露光・現像によりパターンの形成されたレジスト膜を介して、下地の絶縁膜・半導体膜・金属膜をエッチングすることによりおこなわれる。微細加工、すなわちエッチングが完了した後には、マスクに用いたレジスト膜は基板表面から除去する必要がある。この除去工程をレジスト剥離と呼んでおり、主として、有機溶剤系、水系剥離液等が薬液として使用されているが、剥離性能、安全性、薬液コスト等改善すべき課題が多く、新たな薬剤の出現が望まれていた。

エチレンカーボネート(以降ECと表記)はエチレングリコールの環状炭酸エステル(図1)であり、極性が高く、水、有機溶剤、高分子物質に対し、高い溶解能力を持つ非プロトン性極性溶媒である。本品は、当社名古屋工場にて1973年に工業化し、現在まで土壌安定剤(アロンSR)やLi電池用電解液として販売されていた。

2001年、ピュアレックス社にてECが、液晶、半導体製造工程で一般的に使用されているレジストの剥離剤としての性能に優れること及び、剥離使用液のリサイクル使用が可能であることが見いだされた。以降、ECメーカーである当社は同社と委託評価契約を締結し、本用途に関する技術開発を開始した。そして、当社品を液晶、半導体用レジスト剥離剤として使用するためには、優れた剥離能力に加え、低不純物金属含有量、低パ-ティクル数(微粒子)が要求され、高純度化が必要不可欠であることが明らかになった。

我々は、高純度品の評価方法、精製方法を検討するとともに、ピュアレックス社と協力して、リサイクル技術の開発をおこなった結果、ECの高純度化を実現し、液晶、半導体用レジスト剥離剤としての高純度ECを開発した。

本稿では今回開発した高純度ECのレジスト剥離剤としての特徴及びオゾン処理によるリサイクル(剥離EC中のレジスト分解)、劣化ECの回収リサイクルについて説明し、剥離システムの全体像を紹介する。

液体トナー用バインダー

電子写真に使用されるトナーは粉体トナー(乾式トナー)と液体トナーに大別されるが、その主流は粉体トナーである。1960年代によく用いられた液体トナーは、粉体トナー技術の発展に伴い急速に利用が衰退したが、近年になって粉体トナーの画質限界が問題になってくると再び注目されている1)。

画像の高解像度化には、トナー粒径を小さくすることが理想であるが、粉体トナーを数ミクロン以下にすると空気中に浮遊したトナーがじん肺を起こす可能性が高い。また超微粒子の粉体の流動性を確保して保存・供給するのは難しい。このため最新の粉体トナーをこれ以上高解像度にするのは難しいが、液体トナーにすればじん肺などの問題から解放されるため、さらに高解像度を追求することができる。

液体トナーでは(1)トナー粒径が小さいため高解像度の画像が得られる、(2)トナー層が薄く、印刷に近い自然な感じの画像が得られる、(3)乾式のような重いキャリヤを必要としないため、高速化、省エネ化が可能である、(4)現像部・定着部がシンプルに設計できる、(5)トナーの消費量が少なくコストが低減できる、などの特徴が期待できる(図1)。

液体トナーは、1014Ω・cm程度の高抵抗の分散媒(イソパラフィン系溶剤、高級脂肪酸エステル、シリコーンオイルなど)に着色剤と樹脂、必要に応じて荷電制御剤を加えて分散して作られる。この樹脂(バインダー)は、着色剤に吸着し、分散媒中によく分散し、トナー粒子に正または負の電荷を与える機能を持っていることが必要である。さらに定着温度に合った軟化点を有し、皮膚刺激性や変異原性のない樹脂である必要がある。

このように液体トナーに要求される種々の性能を満足させるためのバインダー樹脂を開発した。グラフト技術を用いることにより、両立させにくい性能をともに満足させるような樹脂を開発できたので、紹介する。

分析技術

クリーンルームの新設と新型ICP質量分析計の導入

近年、電子機器の軽薄短小化や高性能化の流れにより、半導体分野においては材料のさらなる超高純度化や、今までになかった新規の化合物が材料として求められるようになってきている。また、半導体以外でも液晶や光素子等、高純度の材料が適用される用途が年々増加の一途をたどっており、高純度材料の市場は拡大すると共に、純度の最高値を競うような熾烈な競争も始まっている。

これまで、東亞合成では研究所および各工場にクリーンルームを設置して高純度化製品の研究開発・製造に供してきたが、このような高純度化材料開発の拡大に対応するため、分析専用のクリーンルームを建設すると同時に新型のICP質量分析計を増設した。

特別寄稿

技術開発センターに於ける開発商品紹介

アロン化成はご存じのように、樹脂の加工屋として直接ユーザーに渡る商品を市場に供給しております。従って、当社の研究開発は「ニーズ思考型」が多く、「シーズ型」のものは殆どありません。開発組織もこのような状況にマッチしたものとなっております。

市場と直結した事業部の直下に、各々の開発グループを持ち、ここでニーズを直接仕入れて新商品開発に当たっております。既存商品の周辺市場が多く、大きく飛躍する新商品開発が難しいと言った難点はあるものの、早期実現と言った面ではそれなりの効果を得ております。

これに対して、技術開発センターは、各事業部から独立した開発組織で、前述した商品開発の基盤となる技術開発及び技術的サポート、どの事業部にも属さないような新しい技術及び商品の開発などを担っております。
エラストマーコンパウンドの新商品「架橋型エラストマー」と「改質剤コンパウンド」について紹介したいと存じます。

研究コラム

タイトル 掲載 所属 執筆者名
「話せば、分かる. . . .か?」 『TREND』7号 新製品開発研究所長 石井 將和

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